ウクレレと不安とわたし

 ロックダウンが続いたあとに、わたしは夢を一つかなえることにした。

ここ数年はずっと夏は日本だったけど、今年はコロナで帰国できなかったどこにも行かない夏休みが終わった9月。わたしはウクレレを買った。

「バンドなんて…陽キャのものでしょ」って、いろいろこじらせていたわたしだが、内心はギターが弾ける人にずっと憧れていたのだ。そんな自分の「ギターが弾ける人になりたい」という夢をウクレレでかなえることにした。

なんでギターじゃないの?と思うかもしれないけど、自分の飽きやすい性格をよく知っている。もし、ギターを買って、挫折したら、部屋の片隅に放置して嫌な気分をずっと味わうのが容易に想像できるくらいには大人になっている。ギターは多くて、目に入ると辛いけど、ウクレレなら小さいから放置しても場所はとらない。そんな魂胆もあって、ウクレレにした。

10年以上のこじらせはなんだったんだろう?と思うほど、たった数回のクリックで夢はわたしのものになった。

9月のある日に、アマゾンから届いた箱は意外に小さくて、あれって思うほど軽かった。

開けてみると、箱の中にはさらに小さく細長い台形の箱があり、その中に無造作な感じでウクレレが入っていた。本体の焼売弁当の醤油入れみたいな形のところは両手を軽く広げ並べたくらいの大きさ。全体の長さはわたしの肩幅よりちょっと広いくらい。赤茶色のマホガニーの板に4本の白い弦がはってある。

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多分ここがギターでいうところのネックだろうなっていう部分を片手ですくうように持ち上げてみる。ふわっと軽い。

「なんだ、おもちゃみたいじゃん。これ。」と、つい口に出た。嘘。何も言ってない。ただそう思った。

1万円ちょっとで買ったそれは、アジア雑貨の店やカフェのデコレーションにあるものよりは本物っぽいけど、ギターとか比べるとどうも深刻度がない。でもなんとなく、乱暴に触ったら壊れそうな気がして落ち着かない。

試しにポロンと鳴らしてみたいけど、ギター知識すらがないので、どこをポロンと弾けばいいのかがわからない。ポロンなのジャーンなの?丸い穴の上あたりの弦?それとももっと下?三角形のピックっている?ウクレレでも使う?そもそも、何指で弾くの?親指?

謎がたくさん出てきて弾くのは諦めて、ウクレレを机の上にそっと置いた。困ったときにいつもするように、携帯を取り出し、YouTubeで「ウクレレ 初心者」を検索した。

するとそこには、これまで一度もわたしのアルゴリズムには現れなかった動画が並んでいた。「「ウクレレ初心者がまず最初に見るレッスン動画」「ウクレレ初心者講座」。大きい文字とウクレレを持った人たちのサムネがずらりと並んだ。

とりあえず、1番最初のほうに出てきた、わかりやすそうなのをクリックする。コードを抑える左手は携帯を持つようにだよ。右手で鳴らす位置は本体と首のつなぎ目あたり。と、初心者の初心者がわからなかったことを全部教えてくれる。

ここで言われたとおりにやってみると、箱を開けて1時間もたたないうちに「日曜日からの使者」が弾けた。

「なんだ簡単じゃん。」

驚く簡単に楽器を弾く人になるという夢をかなえてしまった。そこからウクレレの毎日が始まった。3ヶ月たった今は、初心者向けにアレンジされた、4つのコードで弾ける曲を0.75倍のスピードで再生しながら練習している。

YouTubeのウクレレの先生たちはみんな歌いながらウクレレを弾いている。だから、自然と自分の好きな歌声のウクレレ奏者の動画を見るようになった。1番好きなのはクリスティーナ・リンさん。

1人で楽譜を見ながらコードの練習しても全く楽しくないのに、YouTubeを見ながらウクレレを練習すると楽しい。この違いはなんなんだろう?

YouTubeを見ながらウクレレを弾いてると、画面に映る奏者たちと合奏しているような気持ちになる。でも、本当の合奏ではないから、何度失敗しても心が痛まない。0.5倍速でも弾いてくれるし、同じ場所だけ何回でも繰り返してくれる。わたしが左矢印ボタンを押してるだけなんだけど。

多分、わたしの2020年の冬はどこにも行けないまま終わる。ロックダウンが再び始まったここでは、家族以外で定期的に会えるのは、スーパーの店員さんと仕事の人だけ。友だちとどうでもいい会話をしながら飲むお酒なんてもうしばらくない。

正直なところ、ロックダウンが始まって最初のうちは、会いたくない人に会わなくていいのがラッキー。もともと在宅勤務だから、生活は大して変わらないと思っていた。

だけど、誰にも会わない生活が続いたらだんだん変わってきた。家から「出ない」と「出ることが禁止される」は違うものだ。ちょっとした雑談とか、本屋やカフェでぼおっとすごしたり、スーパーでお菓子どれにしようか悩むみたいな時間がなくなると、生活がどんどん暗くなっていった。

誰にも会えないし、先のことはわからない。「今こそ勉強して未来に備えろ!」ってそりゃそうだし、それが大切なことくらいはわかってる。できることは頑張るけど、正直、不安に凹むときもある。

そんなときでもウクレレは弾ける。

そして、どんな気分であっても練習した分だけ演奏は上手くなる。「筋トレは裏切らない」と同じで、ウクレレも裏切らない。続けていると、前には難しかった指の動きがだんだんできるようになってくる。ちょっとづつだけど、前に進んでいることを感じることができる。

あと、どんなに深刻なことを考えててもウクレレを抱えてるだけで、なんかハッピーな人に見える効果がある。弾かなくてもいいから、深刻な時ほど、ウクレレを抱えて鏡を見て欲しい欲しい。

そこにいるのはちょっとだけ間が抜けてハッピーな雰囲気のあなただから。

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